鴇田老人を演じることになる近澤可也です。今、とまどっています。一生懸命に渡されたシナリオ第3稿を読んでいるのですが、私には鴇田なる人物の実感がわかない。
どんな出生、過去を持っていて、なぜ自殺を志したのか?そこにいたるまでのバックストーリーがわからない。まったくの情報不足である。85歳の老人が、なんであわてて自分から死ななきゃならないのか?
映画では、鴇田老人は終始無言!最後の場面で「……いきなさい」というだけ。役者としては、登場人物を表現できるセリフが無いのがつらい。感じたことをその時その場、自分の生の肉声でそのまま語り、ありのまま表現したい。だがこの映画では許されない。
セリフではなく、身体で反応し、表現しなくてはならない。これも私にとって新しい経験で、挑戦しなさいということでしょうか。
カメラをまわしてみないと分からない。どんな映画に仕上がるのか、お楽しみです。
監督の監督ぶったコメント:
近澤さんは「建築家・パンデコン建築設計研究所代表」という肩書きを持つ傍ら、多くの舞台やCM等にも出演され、またシナリオ・センターにも通われるなど様々な表現活動を精力的にこなしておられます。本当はとても偉い方なのに、若い人にも腰が低く、親切な方です。僕もこれまでにどれだけ助けて頂いたかわかりません。
もっとも「役者」として助けて頂くのは、これからが本番となります。鴇田役ははっきり言って難しい、ひょっとしたら嫩役よりも難しいかもしれません。なにしろ「何もせず、ただ、そこにあること」を求められるのですから。でも、「台詞=言葉」だけが役者としての表現手段なのではありません。映画は「言葉」に支配されるようになってから、むしろ表現の領域を狭めてきました。「言葉」に縛られない鴇田が、どんな新しい「表現」を見せてくれるのか、僕はそこにこそ期待を掛けているのです。